第1896号2012年11月10日
実践をもとに熱心に協議 第62次教育研究静岡県集会開催

2012年10月27日(土)・28日(日)に、伊東市立宇佐美中学校と宇佐美小学校(東豆支部)を会場に、第62次教育研究静岡県集会が開催されました。

1日目午前の全体会では、NHK解説主幹である早川信夫さんによる、「今求められるこどもの学びとは」と題した講演が行われました。

1日目午後から2日間にわたって開催された分科会では、計256本のリポートが提出され、それぞれの組合員が日頃熱心にとりくんでいる実践を交流するとともに、リポートに基づいた活発な討論が行われました。常設の分科会以外にも、栄養教職員部懇談会が開かれ、充実した話し合いが行われました。

県下各地から約1,000人が集まりました。中身が濃く、学びの多い研究集会となりました。

執行委員長あいさつ

教育活動に生きる一歩となる研究集会に

静岡県教職員組合執行委員長 鈴木伸昭

今年は、小中学校ともに新学習指導要領が完全実施され、各学校では様々な課題を抱えつつも、子どもや地域の実態を踏まえた魅力ある教育活動の展開に努められていることと思います。ただ、新たな学習内容の導入や量の増大は、指導法に関する戸惑いや十分な定着まで至らない課題を生み出したり、子どもたちの「なぜ」や「〜したい」から始まる学びを大切にしようとしても、十分に消化しきれない歯がゆさを招いたりとの声を聞きます。しかし、そうかといって、拙速な成果を求めたり、一方的に特定の知識や価値観を押し付けたりすることなく、時間と手間をかけ、真摯に子どもと向き合うとりくみが県内で展開されています。

今、社会は不安定な政治動向や経済の停滞から閉塞感が漂い、東日本大震災からの復興を始め、格差・貧困問題への対応、不安定雇用への対応等が後手に回り、将来に向けた光明をなかなか見いだせない状況にあります。私たちに関わるところでは、子どもの貧困や若年層の雇用問題が注視されています。生活保護世帯は毎年増加し、相対的貧困率の数字からは17歳以下の子どもの内、7人に1人が貧困状態にあると言われ、経済格差が教育格差へとつながる傾向が強まることへの懸念を示しています。また2012年8月時点での24歳以下の完全失業率が7.8%と、全世代平均の4.2%に対し高い数値を示しています。このことは不十分な雇用環境に加え、若者の未成熟な職業観に起因しているのではないかとの指摘もあり、注目すべき数字です。こうした不安定な社会状況に加え、子ども虐待相談件数、いじめ認知件数、不登校の数等は相変わらず多い状況にあり、自らの居場所を見いだせず、孤独感や将来不安に苛まれている子どもや若者が数多くいます。

教育界をとりまく状況には他にも懸念されることが幾つかあります。「グローバルな人材育成」と称して競争原理を強調する新自由主義的な発想の教育論、排他的な愛国心を掲げる保守的な発想の教育論を声高に唱える人々が、再び力を得ようとする向きがあります。教育の中立性を脅かし、政治が教育内容に介入しようとする動きも見られます。これらは、一部の大人にとって都合の良い社会のために教育を利用し、子どもをある種の道具として見なしているかのように受けとめざるを得ません。子どもは大人の道具ではなく、将来の社会を形成する主権者であることを私たちは見失ってはならないと思います。

私たちが担う公教育は、多様な背景を背負う子どもたちを選別することなく受け入れ、市民社会を担う主権者として自立できるよう、必要な知識や技能を伝達し、自ら考え行動できる力を育成する重要な責務を負います。子どもたちとの接点にいる私たち教職員に委ねられた役割は大きく、真摯に子どもと向き合い必要な学びを追い求めることで、教育の目的である「人格の完成」につながる関わりをもつことになります。だからこそ力量が問われ、専門性が求められます。そして、専門家にありがちな独善的な態度に陥ることなく、自らの考えや実践を少し高い所から俯瞰する視点や他からの評価を得る機会もまた不可欠であり、本研究集会はその一つの機会でもあります。

これまで静教組がすすめてきた教育研究活動は、常に子どもを中心に置いた日々の実践に基づくことで、静岡の教育に深く静かに浸透してきました。また民主教育の確立という点において、奇をてらわず、しかし独自性・主体性を失うことなく、その創造性と自由闊達な議論を大切にし、現在に至っています。本集会の成果が、次の日からの教育活動に生きる一歩となることを願います。

記念講演

今求められるこどもの学びとは

NHK解説主幹 早川信夫さん

広い見識、豊富な情報量に基づいて、今、話題になっていること、教育界で問題となっていることについて、お話をしてくださいました。教育に関わる内容の一部をお伝えします。

■学校の役割とは・・・

子どもの学びにとっての学校の役割は、成績の良し悪しを競うのではなく、生涯を通じて生きていくための基礎となる力をつけること、つまり、学校で学んだことを生かして直面する課題にひるまず、自分で考え自分の力で判断し解決していく、いわば生きる力を育むことではないかと考える。

■いじめを考える

中高生の生活実態調査から、いじめはどの学校にもある可能性があること、いじめを見聞きしても「何もしない」と答えた中学生が48%もいることがわかった。女子高校生の10%がネットでのいじめ経験があると回答している。大人の聞く耳こそ大事。いじめはどこでも起こりうることを覚悟し、いじめを受けた子どもが声を上げやすい環境を整えておく必要がある。

■東日本大震災で問われた学校の力

なぜ学校再開を急いだのか?それは、学校に子どもたちの声が戻ることで、地域復興の支え・原動力となったからである。また、日頃から地域と良好な関係が築かれている学校は、地域が学校を支えて避難所としてうまく機能できたことがわかった。

参加者の感想

  • 考える力、生きる力の育成がこれからもっと必要になることを痛感しました。情報の世界をいかに上手に活用し、内容を吟味することを一層行っていかなければいけないと思いました。
  • わからないことを説明できること、自分で判断し自分で解決する力をつけることなど、明日からの指導に参考となることを教えていただきました。