第2040号2018年11月10日
県内各地の教育実践研究が掛川に集結 第68次教育研究静岡県集会開催

 10月27日(土)・28日(日)に、第68次教育研究静岡県集会が、開催地である掛川市及び掛川・菊川・御前崎各市教育委員会他、多くの関係諸団体からの後援を得て、掛川市立西中学校・中央小学校を会場にして開催されました。

鈴木伸昭中央執行委員長は、多くの関係者の熱意と協力によって開催される本集会が、憲法と子どもの権利条約の理念を基盤に、人権が尊重され民主主義に依拠した平和な社会の形成者としての人づくりをどうすすめていくかということ、子どもを学びの主体とし、その子なりの自己実現を図るための力をどう育むかということに力点を置き、自由闊達に意見を交わす場であることを述べました。その上で、全体会での講演のテーマである児童労働に触れ、持続可能な社会づくりと絡めて、教育の果たす役割や重要性について参加者に訴えました。

また、来賓を代表して佐藤嘉晃 掛川市教育長からあいさつをいただきました。全体会では、認定NPO法人ACE代表 岩附由香さんを招き、記念講演が行われました。

1日目午後から2日目午前にかけては、24の分科会(うち2つは小分科会)と栄養教職員部懇談会が開催されました。さらに今年は組合員からの要望もあり「特別の教科 道徳」の特別分科会も行われました。今回は計207本のリポートが発表され、各分科会で熱い討論が行われました。

児童労働の問題を切り口に、真のグローバルな人づくりを

静岡県教職員組合
中央執行委員長
鈴木伸昭

本年は日本各地で自然災害が続発する年となりました。数十年に一度という集中豪雨や「災害級の暑さ」という言葉が用いられた厳しい暑さなどは、環境の変化が引き起こした異常気象であると言われており、環境問題が私たちの生活と密接につながっており、深刻に受け止めなければならないことを改めて認識する機会となりました。

経済発展や技術革新により、私たちの生活は物質的には豊かで便利になりましたが、一方で特に先進国における大量生産・大量消費・ローコストハイリターンを伴う便利さや豊かさは、環境を破壊し悪化させている原因となっています。国連では、地球レベルで起こっている環境問題を放置することは、やがて自らの命や生活を脅かすことにつながる重大な問題として取り上げ、解決に向けた方策として「持続可能な社会」づくりを掲げました。近年では、2015年の国連総会で向こう15年間の目標を定めた「持続可能な開発目標」Sustainable Development Goals、通称「SDGs」を定めました。そこでは、豊かな海や陸地、自然を保持することなど17の目標を掲げていますが、目標は単に環境を保護することだけではなく、貧困や飢餓をなくすこと、質の高い教育を確保すること、働き甲斐のある人間らしい仕事、いわゆるディーセントワークの実現を図ることなど、幅広いとりくみが必要であることを訴えています。これらのことが、社会の健全性や持続可能性を生み出すには必要なものとして認識されています。

世界中で、私たちの想像を超えた数の子どもたちが、危険で有害な労働や義務教育を妨げる労働に従事しています。その背景には貧困や教育機会の欠如、差別、紛争などがありますが、実はそれだけでなく先進国の過剰な消費社会が賃金コストを抑えるために意図的に生み出していることにも目を向ける必要があります。児童労働の背景にある事実を知り、よりよい解決に向けてできることを学び、行動する態度や技能を育てることが大切です。近年、「グローバル人材の育成」という言葉が教育に期待されるものとして見聞きされますが、「英語が話せてタフな交渉ができる人」「複数の国をまたがるビジネスにおいて成果を生み出す人」のように、先入観に囚われた固定的な意味合いのものとして受け止めていることが多いのではないでしょうか。そうではなく、より広い意味で、この地球上で起こっていることを真摯に受け止め、その課題に向けて何かができる人、あるいはしようとする人を「グローバル人材」と呼ぶことの方がむしろふさわしいのではないでしょうか。言葉の意味ひとつとっても、私たちは無意識の内に固定的な概念に囚われてしまうことがあります。そのことに対する新たな気づきは、こうした交流の場に参加し異なった視点に触れることで得られることがあります。本集会が参加される皆さんにとって、そのような気づきを得られる場となれば幸いですが、そうでないとしても、ぜひ主体的・対話的で深い学びの場となるよう、積極的なご参加をいただければと思います。

記念講演「児童労働のない未来をつくる!」
〜「この世は生きる価値がある」と子ども・若者が思える社会へ〜

認定NPO法人 ACE代表
岩附由香 さん

講師である岩附由香さんは、これまでに児童労働問題ひとすじにとりくまれてきた方です。今回は代表を務めるACEのキャッチフレーズである、「遊ぶ、学ぶ、笑う、そんなあたりまえを世界の子どもたちに」を実現していきたいという強い思いを語られました。

■子どもと児童労働について〜子どもの権利・児童労働とは〜

国連子どもの権利条約では、18歳未満を子どもと定義しており、世界の中で子どもが占める割合は、3人に1人である。子どもの権利条約は世界共通のものであり、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利が守られている。また子どもの権利を守るのはおとなの責任とも示されている。

法律で18歳未満に禁止している危険で有害な労働や義務教育を妨げる労働を児童労働ととらえ、その児童労働に従事する子どもの数は1億5200万人である。5歳から17歳の子ども10人に1人が児童労働に強いられている状態となっている。

現在子どもの権利条約をはじめとして、児童労働を禁止する国際条約が存在している。しかしながら、チョコレート、Tシャツ、スマートフォン等児童労働が関わっている可能性のある製品は私たちの身の回りにいくつも存在している。現在課題となっているのは、児童労働の減少傾向が過去4年で弱まってきていることである。さらに2017年に新しく発表された推計では、先進国でも200万人が児童労働を行っているという結果が出ている。

■児童労働の原因 児童労働解決のアプローチ

なぜ児童労働が起きるのかを2つの観点から説明すると、一つは家庭側にあり、貧困や家庭環境の不備、教育への意識の低さである。もう一つは雇う側にあり、コスト削減のための安い労働力、多くの働き手が必要であることである。

そういった現状を改善、廃止するために、持続可能な開発目標(SDGs)が考えられた。一言でいえば、2030年までにありたい姿を、世界各国、民間、NGO等いろいろな人たちが2年以上議論を重ねて合意した目標である。この目標は、今のままだと地球はもたない、貧困はなくならないという現状のもと、「我々は地球を救う最後の世代になる」「我々は貧困をなくす最初の世代になる」といった熱意が込められたものである。

■SDGsを受けて〜ACEの活動ビジョン〜

私たちACEは、SDGsにある2025年までにあらゆる形態の児童労働を終わらせるという目標に向け、子ども支援事業や啓発・市民参加事業等に関わり、多方面からとりくみをすすめている。

現在ガーナのカカオ生産地、インドのコットン生産地で児童労働の撤廃、予防の活動を地域の人たちとともに展開している。現地で子どもの教育、地域の自立支援プロジェクトの実施、日本で消費行動や企業行動を変えること、プログラムをアドボカシー(政策提言)で変えていくこと等を通して、部分的な解決ではなく、根本的な解決をめざしたいと考えている。また、日本では、児童労働の問題を啓発する活動もしている。

私たちACEは、子ども、若者のためにある組織であり、「子ども、若者が自らの意思で、人生や社会を築くことができる世界をつくるため、子ども、若者の権利を奪う社会課題を解決します」ということが私たちACEの存在意義である。

■最後にみなさんへ
  • ACEの教材を使って、授業をしてみませんか?
  • 児童労働について、学校でも話題にしてください。

講演会の途中にACEに関わりのある谷川俊太郎さんの詩が紹介されました。YouTubeで見ることもできます。

講演後の参加者の声
  • 子どもと関わる立場である以上、国に関係なく子どもの現状を知ることは大切だと感じた。当たり前のように毎日授業をしているが、それが当たり前でないことに改めて気づくことができた。
  • 久々に心が震える話だった。自分に何ができるかを考えるだけでなく、自分にできることをさっそく実行していこうと強く思った。
  • 谷川俊太郎さんの詩に心動かされ、今もどこかで過酷な労働を強いられている子どもたちを思い、涙があふれてきた。

各分科会で熱い討論 〜参加者の声〜

社会科教育分科会

美術科教育分科会

技術科教育分科会

  • 分科会の進行がとてもスムーズで、計画性のある運営だったと思う。授業実践については、深い考察によるレポートが数多くあり、レベルの高い発表内容だった。
  • 休日の時間を費やすだけの価値がある分科会となった。共同研究者が「先生方の底力を見た」とおっしゃていただいたように、1日半の分科会が充実した時間となった。
  • いろいろな視点で授業実践をされていて、実践者が熱い思いをもってとりくんでいることがわかり、自分もエネルギーをもらうことができた。
  • 小中学校における学びの実態把握やつながりの意識化の大切さを感じた。主体的な学びを実現するために、様々な手だてが考えられることがわかった。
  • 和やかな雰囲気の中で、みなさんが討論に参加しやすかったと思う。今後自分自身が授業実践していく中で「やってみよう」と思えるものがたくさんあった。
  • 様々な実践を聞くことができ、県内各地域には、こんなにも熱心に研究されている先生たちがいるということを知り、良い刺激になった。
  • 一つ一つの発表に対して、共同研究者から価値づけやさらなるアドバイスをいただき、とても参考になった。インクルーシブの視点だけではなく、やはり特別支援の視点も大切だと改めて感じた。