第1989号2016年9月25日
書記長コラム 〜春夏秋冬〜 第3回

8月、各支部組合員16人とともに「第19回オーストラリア教育体験視察と交流の旅」としてメルボルンを訪問しました。オーストラリア教育組合(AEU)ビクトリア支部と静教組の間で毎年、組合員が互いの国を訪れ、ホームステイや学校訪問、協議会等を行っています。私も学校訪問をさせていただきましたが、学年の枠がどこにあるのか分からないオープンスペースで学ぶ子どもたちや、休憩時間に、お菓子やコーヒーを飲みながら談笑する教職員の姿に触れ、日本の学校の風景とはかなり異なる雰囲気に少々驚かされました。一方、協議会では、オーストラリアの公立学校が置かれている現状について報告があり、「現政権の教育政策が公教育の崩壊に繋がりかねない」旨の話を聞き、こちらは日本と似た状況であると感じました。一例を挙げると、オーストラリアでは、公立学校と私立学校の学校数の比は「7:3」とのことですが、連邦政府の予算配分は「3:7」と逆転しているそうです。今年実施された総選挙において、AEUはキャンペーン活動を展開し、その問題を広く国民に訴えたそうですが、政権交代を果たすことはできなかったそうです。

帰国後、新聞を読んでいたら「文科省 私立小学校・中学校へ通う児童生徒の授業料の一部補助」の記事を見つけました。8月末に公表された「平成29年度概算要求」を見ると、年収に応じ、年10万〜14万円を支援するため、約13億円が盛り込まれています。経費面で悩んでいた家庭や子どもの‘後押し’となることは必至であり、同時にそれは公立学校へ通う子どもの減少に繋がります。財務省がどのような判断を下すのかは不明ですが、財政健全化が求められる中、公立学校の削減につながる文科省案の実現度は高いのではないでしょうか。オーストラリアの公立学校が置かれている現状は‘対岸の火事’ではないと感じます。

「公教育の民営化」は世界的潮流であり、各国の財政状況が厳しい中、OECDは「民間の力を活用して途上国の教育力を高めることにより、世界的なGDPを高めることができる」として、途上国の政府に政策を働きかけています。全国学力・学習状況調査を始める一因となったPISA(生徒の学習到達度調査)も、OECDの教育戦略の一環として実施されており、‘トップクラス’の日本の教育は、世界から注目されています。文科省が打ち出した「私学支援策」の背景には、「公教育の民営化」が潜んでいるのではと感じてしまいます。

AEU前委員長のアンジェロさんは今、EI(教育インターナショナル)の特命役員として「公教育の民営化」と闘っています。東南アジア・アフリカなどへ赴き、政府や教職員に対して公教育の質保障の重要性を訴えているとのことです。日教組役員を務めていたとき、アンジェロさんとは言葉は直接通じませんでしたが(苦笑)、思いは通じ合うことができ、グローバル社会の中での教育の置かれている現状や私たち教職員がすべきことを熱く語り合いました。静教組が連合静岡と共にとりくんでいる教育署名も、公教育の質を高め、子どもたちのゆたかな学びを保障することを目的としています。数千km、数万km離れた地でも、同じ思いで共に闘っている仲間の存在を感じながら、今年も署名活動を展開しましょう!

(静教組書記長 赤池 浩章)