
第1920号2013年11月10日
台風を吹き飛ばす熱い議論 第63次教育研究静岡県集会開催

2013年10月26日(土)・27日(日)に、吉田町立吉田中学校(榛原支部)を会場に、第63次教育研究静岡県集会が開催されました。
台風27号の影響で、1日目午前の全体会、記念講演は中止、15時から分科会を開催する異例の研究集会となりました。分科会の運営も変更を余儀なくされましたが、推進委員、共同研究者、分科会責任者、そして正会員をはじめとした参加者のみなさんの努力と協力により、活発な議論が行われました。
2日間にわたって、計246本のリポートが提出され、日頃熱心にとりくんでいる実践を交流するとともに、参加者それぞれが、教育研究を深めたり広げたりすることができ、力量を高めました。
県下各地から約800人が集まり中身が濃く、学びの多い研究集会となりました。
執行委員長あいさつ
健全な批判精神をもって社会を見つめる目を
静岡県教職員組合執行委員長 鈴木伸昭

今年も教育について社会全体が関心を寄せる話題は尽きず、その中でも学力学習状況調査の結果とその取り扱いから端を発した問題は、様々な思いを錯綜させつつ波紋を広げています。議論と批判の矛先は、教員の指導力から始まり、結果公開の是非、調査そのもののあり方、教材の選択、授業論へと多方面に向けられ、収束に向けた道筋は未だ見えない状況にあります。
公立の小中学校は、様々な背景を抱えた子どもたちを選別することなく受け容れ、社会に出て行くために必要な力を一様につけていくことを役割としています。その「必要な力」とは、いわゆる「読み書き算盤」と言われるような基礎基本もあれば、その子がもつ良さを生かした個別の能力もあります。それらは数値で測ることのできるものもあれば、意欲や関心の度合いのように単純には測ることができず見えにくいものもあります。今回の調査結果は学力の一端を示す物差しであり、子どもの育ちにつながる学びの活動すべてを評価するものではありません。
そもそも、この学力学習状況調査の目的は何であったのか?この問題に政治はどこまで関与するべきなのか?マスコミ等による批判・検証はニュートラルな教育論の立場からされているのか?私たちは教える側の当事者であることから、一連の主張に対して反論しにくい立場にあります。そのため、今は必要以上に振り回されることなく、日常の実践をもって反論するという姿勢に努めることが肝要ではないでしょうか。今回の調査結果の取り扱い方について、サイレントマジョリティは冷静に批判的な目線で見ているように私は感じています。教育を大切に考える方々の良識を信じることが賢明だと判断し、私たち自身も冷静に対処する必要があろうかと思っています。
昨年12月の政権交代後、これまでの教育政策が大きく方向転換されようとしています。その多くは教育再生実行会議が主導し、第一次提言ではいじめ対策としての道徳の教科化、第二次提言では教育委員会制度の見直し、第三次提言では大学教育改革とそれに伴う早期英語教育と、今後の教育の有り様を変える提言が示され、順次、中教審等で検討がされています。また、土曜授業の実施を拡大しようとの動きも強まっています。私たちは教育の最前線で子どもたちと接する中で、これからこうした改革と否応なく向き合わなければならない可能性があります。それまでは政治の役割として35人学級実現に向けた定数改善等の教育環境の整備に主眼が置かれていましたが、今後は教育内容や指導のあり方に政治が強く関わろうとしていることが大きな違いです。慎重な取り扱いを求めるものから具体化に疑念をもつものまで、違和感を覚える政策が並んでいます。そこには急速に進展するグローバル化への対応として産業・経済界からの要請に基づくものがあれば、一方で国策としてすすめようとすることに従順な国民の育成と言った観点もあると推察できます。これら一つ一つのパーツを組み合わせてトータルとして描く教育のあり方には、ある種の危機感を覚えるものがあります。みなさんは、そこにどんなものが見えるでしょうか。
組合教研の意義のひとつには、こうした危うさを内包した教育論に対峙することがあります。その基盤には、憲法と子どもの権利条約に示された理念をどのように具現化するかという点があります。憲法が示す三原則に基づき、人権が尊重され、民主主義に依拠した平和な社会づくりに向けた人づくりをどうすすめていくかということ、子どもの権利条約に基づき、子どもを学びの主体として、生きていくために必要な力を身につけるための学ぶ権利をいかに保障するかということです。産業・経済界が求める人材育成を否定するものではありませんが、義務教育がそのこと一辺倒に傾くことはあってはならないことであり、必要なバランスをとらなければなりません。その意味で、私たちの教育実践の中には、常にバランスをとるための対抗軸としての視点が必要です。子どもも教職員も健全な批判精神をもって社会を見つめる目を養うこと…組合教研の意義はそこにあるのではないかと私は考えます。
参加者の感想
- 単元を貫く課題を設定することの大切さと言語活動を行ううえで、目標に向かうための手だて。この2つが明確になった。
- 若い先生方が、同じ学校や地区の先生方に協力していただいて、素晴らしい研究を行っていることを知った。大変参考になった。
- 大学の先生による新しい教具の紹介やや授業構想の提案などがあり、とてもおもしろかった。他地区の様子もわかり有意義だった。
- 実践発表や新たなとりくみの情報など、発表者や共同研究者の話から知ることができたことは、今回参加して、自分自身の財産になった。
- 榛原支部の先生方がとても親切でよかった。係のみなさんが笑顔で、温かさ、誠実さを感じた。常に「困ってないですか」と聞いてくださり、うれしかった。
- 会場をとても気持ちよく使うことができた。吉田中の先生方や生徒のみなさんに感謝したい。校内の掲示が素晴らしかった。
