
第1872号2011年11月10日
熱い思いを交流した研究集会 第61次教育研究静岡県集会開催

2011年10月22日(土)・23日(日)に、湖西市立鷲津中学校と鷲津小学校において、開催支部の浜名支部を始め、磐周支部・浜松支部の協力により第61次教育研究静岡県集会が開催されました。
1日目午前の全体会では、明治大学文学部教授である諸富祥彦(もろとみよしひこ)さんによる、「教職員の人間関係力」と題した講演が行われました。
1日目午後から2日間にわたって開催された分科会では、計249本のリポートが提出され、それぞれの組合員が日頃熱心にとりくんでいる実践を交流するとともに、リポートに基づいた活発な討論が行われました。常設の分科会以外にも、栄養教職員部懇談会と「東日本大震災とこれからの教育がめざすもの 〜子どもたちにつけたい『人間力』とは〜」をテーマとした特別分科会が開かれ、充実した話し合いが行われました。
県下各地から2日間でのべ約1,800人が集まりました。中身が濃く、学びの多い研究集会となりました。
議論を深める研究集会に
静岡県教職員組合執行委員長 鈴木 伸昭

これまで静教組がすすめてきた教育研究活動は、子ども一人一人の存在を認め、学ぶ喜びと笑顔の溢れる学校づくりを標榜し、実践に基づく議論を重ねることで、教育現場に深く静かに浸透してきました。また、教職員組合としての教育研究活動のよさは、その豊かな創造性と自由闊達な議論ができることにあり、県下各地の教職員が集まり率直な思いをもって実践交流できることです。
子どもたちを巡る教育課題は常に山積し、近年では、貧困と格差や進行するネット社会に起因するもの、児童虐待・ネグレクト等の社会病理的なものを始め、社会の変化に伴う新たな諸問題に対して、学校は常にその対応を迫られています。また、生徒指導上の諸問題も思うように改善へと向かわない状況もあります。学校教育が担うことのできる限界はありますが、こうした現実も直視し、家庭や地域との連携の在り方を含め、日々のとりくみを検証しつつ改善に努める必要があります。「教室を原点」とした豊かな学びをつくりあげていく営みは永続的なものであり、今後も絶え間ないとりくみをすすめていきます。
学習指導要領が改訂され、小学校から順次完全実施されます。「生きる力」の育成という理念は変わらずも、授業時数・学習内容の増大に力点が置かれ、加えて外国語活動等の新たな学習内容が盛り込まれています。留意すべきは、その改訂の経緯において、マスコミの造語である「ゆとり教育」に対する漠然とした不安や批判、一部の大学教授・知識人が主張した学力低下論、OECDによる学習到達度調査の国際比較結果等があり、それらを受け、当時の政権による「競争と選択」という言葉に象徴される新自由主義的政策から教育再生会議のような場が設けられ、教育現場の苦悩とは乖離した議論から端を発したところがあることです。教育内容の質から量への転換とも受け止められる部分は、学力の捉えという振り子が逆側に振れた感があります。
公教育の根幹に関わる方針はぶれることなく、継続性・安定性・公共性が担保されるべきです。私たちは公教育としての義務教育を担う立場にあることから、多様な背景を背負う子どもたちを選別することなく受け入れ、人として必要とされる知識・技能・思考力・判断力等の基礎を身につけさせ、次の段階に送り出す責務を負います。今改めて、なぜ「生きる力」が掲げられたのか、その背景と考え方を思い起こす必要があります。
先の大震災において、混乱の中でも秩序とモラルを失わない日本人の姿が世界各国から高く評価されました。それは、元来日本人がもつ国民性でもあり、長きに亘り地域社会の中で醸成されてきたものかもしれません。しかし学校教育の中にも、その秩序とモラルを育んだ土壌があります。学校は単なる知識の習得としての学習の場だけではなく、子どもたちにとって社会の縮図としての学びの場となる機能を有しています。様々な場面に、集団生活を営む上での基本となる生活様式がちりばめられ、その体験を通して、自分と他との関わり方を学んでいます。
知識・技能の習得とともに、集団の中で他を思いやる心、共に生きる力、そうした人として必要な資質を育む手だてを、学校は教育活動全体の中で積み上げてきました。これらは日本独特の教育文化とも言えるかもしれません。そして忘れてはならないのが、こうした手法や考え方の多くは、一人一人の教職員によって日々の実践を通した必要感から編み出されてきたものであり、広がっていったものだということです。国の政策的意図によって作られたものではないということを私たちは知る必要があります。
人の育ちは学校教育だけが背負うものではありませんが、その責任は重大です。教育に責任をもつ組織として「ひとつひとつの変革を主体的にどう捉え、子どもたちに返していくか」、このことは私たちの教育研究活動において重要なポイントと考えます。それだけに、教職員は主体的な研修の機会が担保されなければなりませんし、その内容は多様であってよいのです。教育内容は最前線にいる私たち自身の手でつくりあげていくという原則を確認しつつ、今回の研究集会においては議論を深めていきましょう。
記念講演 教職員の人間関係力
講師 諸富祥彦さん(明治大学文学部教授)

諸富さんの講演は、まず、「教職員にとって人間関係をどうしていくかはこれからの大きな課題です。人間関係にはチームワークが大切です。4人組になって気持ちを一つにしてダンスを踊ってみましょう。オリジナリティのあるダンスを考えましょう」と始まりました。最初は戸惑っていた参加者も徐々にからだを動かし始め、会場が笑いと歓声の渦に巻き込まれました。エンカウンターの手法をとり入れたり、ポイントとなるキーワードを隣りの人に伝える活動を行ったりすることを通して、参加者同士の人間関係をつくりながら、諸富さんは次のようなことを話してくださいました。
教職員には人間関係の力が問われている。「人間関係のプロ」でなくてはならない。相手を選べないので、相手がどんな人でも、すっと人間関係をつくれる力が求められる。そのような力をリレーション(総合的人間関係力)と言う。例えば、廊下での立ち話でも信頼関係がつくれるような力のことである。
また、教職員は「リーダーシップ」と「カウンセリングマインド」という2つの能力をバランスよく備えている必要がある。リーダーシップとは、目標を決め、ルールを守らせること。ルールは、子どもたちの関係をつくっていく上でとても大事である。特に、次の2つのルールは守らせなければいけない。1つには、人を傷つけることは言わないということ。もう1つは、だれかが発言している時には最後まで聴くということ。自分が必要とされているという思いを子どもたちにもたせることもリーダーシップである。カウンセリングマインドにより、心のふれあいが生まれる。ルールとふれあいのバランスがとれていることが大切である。
ストレスはこまめに解消するとよい。助けを求める力、弱みを見せる力もとても大切である。学年団が重要となる。お互いに弱音を共有する雰囲気をつくる援助的リーダーシップが求められる。また、職場に一人でもいいから何でも相談できる人をつくることも必要である。
通常の講演とは全く違った講演スタイルで、次はどんな話だろう、何をやるのだろうと、期待感や緊張感にあふれた1時間半でした。聴いている人を飽きさせない、ユーモアいっぱいのお話でしたが、わかりやすく簡潔な言葉で、また、具体的に、私たちが教職員としてどうあったらよいか、どう対処したらよいかを教えていただきました。次の日からの教育活動にすぐに生かせるものでした。また、大いに笑い、からだを動かし、近くに座った人たちと話をして、ほっと心がほぐれた講演でした。

▲キーワードを隣りの人に伝えます

▲4人組でクリエイティブなダンスを考えます
参加者の感想
- 講演自体が人間関係づくりのエクササイズになっていて楽しくとりくめました。諸富さんの不思議なキャラクターにいつの間にか惹きこまれていました。
- 笑顔あふれる楽しい講演会でした。弱音を吐ける職員集団にすることが大切だと思います。ありがたいことに、自校の職員はお互いに助け合っていると思います。
- 参加体験型の講演会で、非常に楽しく参加させていただきました。考え方や大切にしたいポイントなど、共感できることが多くあり、自分の普段の生活を見直すよい機会になりました。
- 人間関係力について、エンカウンターやペアでの会話等を交えながらの講演で、とても楽しく学べました。子どもたちに「誰とでも仲良く」と言う以上、人間関係づくりのプロでいなければ、と振り返ることができました。
