第1848号2010年11月10日
研究交流が深まった 実り多い研究集会 第60次教育研究静岡県集会開催

2010年10月30日(土)31日(日)に、静岡市立清水第一中学校と清水辻小学校において、清庵支部と静岡支部の共催で第60次教育研究静岡県集会が開催されました。

1日目午前の全体会では、杏林大学外国語学部教授であり、日本語学者である金田一秀穂さんによる、『世界一受けたい授業 〜おもしろ日本語〜』と題した講演が行われました。

1日目午後から2日間にわたって開催された分科会では、計255本のリポートが提出され、それぞれの組合員が日頃の実践を発表し合い、それをもとに、熱心な討議がなされました。また、教科・領域に関する分科会以外に、栄養教職員部懇談会と特別分科会「静教組のめざす学びと学校のあり方」が開かれ、充実した話し合いが行われました。

県下各地から2日間でのべ約1,550人が集まりました。60年という長い歴史をもつ研究集会にふさわしい、実り多いものとなりました。

お互いの教育研究を語り合おう

静岡県教職員組合執行委員長 加藤 典男

1990年代前半の頃、当時の文部省は「標準時数はあくまで標準であって最高でも最低でもない」とし、授業に燃えている私たちは、より確かな年間指導計画ができると話し合った記憶があります。授業を通して必要な学力を身につけ、ものごとを深く考えるようになれば世の中も進展するし、学校教育の自由度は、教職員の力量を高めることになると考えました。それは教育改革としての学校5日制の本来めざしてきたものと連なります。

しかし、この10年20年の現実の状況は、静教組のめざす「豊かな学び」にはまだ道半ばです。その3点についてあらためて呼びかけます。

  1. 互いを尊重し、平和な社会を形成するために必要な感性、判断力を身につけること。
  2. 互いの思いや考えを伝え合うために必要な言語や表現方法等の知識、技能を体験的な活動を通して身につけること。
  3. 将来に対する夢や希望、自己肯定感、思いやりをもち自分の生き方を問い続けること。

静教組が掲げるこの3つを胸においていただき、実践発表に耳を傾け、意見交換をして深め、お互いの懸命な努力にエールを送る機会になればと願ってやみません。王貞治さんの言葉「先生たちをがんじがらめにしないで自由にやらせてあげたい。先生の個性を生かすことで、より情熱をもってとりくめるようになるのではないかと思います。子どもって、本来先生を尊敬しているし、頼りにしているんです。」このことを重く受け止めます。

経済格差が教育格差を生み連鎖していくのは、この社会に身をおくものとしてあってはならないことだと強く思います。働くことは権利であり、義務です。このことは憲法にあります。今の状況は、たとえば介護や医療から社会を見つめれば、極めてハードなことを強いられるのであれば働く人は集まりません。自分の将来が見えない職場では働きたい人も定着しないという不条理が、子どもたちの健やかな成長を支援する教職員の職場にもあてはまるとすれば、私たちの不安は的中してしまうのです。特別支援やへき地教育、そして専門部の苦悩も多いのです。さらにもし、教職員自らの教育観や教育方法の自己呪縛があるとすれば、私たちには自らの教育研究を語り合う場がどうしても必要です。静教組は、組織と人が結びつく場を大切にしたいと考えています。この2日間を今後に生かしていただければ大変うれしく思います。県内各地からの255本のリポートをもとに話し合いましょう。原点に戻っていけるよう責任を果たすことを確認したいと思います。原点は「どうして」「なぜ」とつぶやく子どもが理解し発見できたときの笑顔、それは私たちの喜びでもあるということです。第60次記念講演の講師金田一先生からのお話も楽しみにしています。2日間よろしくお願いします。

記念講演 世界一受けたい授業 〜おもしろ日本語〜

講師 金田一秀穂さん(杏林大学外国語学部教授 日本語学者)

金田一さんは、日本語を外国語として教えておられる立場から、私たちが普段あまり意識していない「言葉」について話してくださいました。

例えば、「机の前に立ちなさい。」と言われた時、あなたはどこに立つか。「窓がいくつあるか。」と聞かれたら、いくつと答えるか。アニメソングの歌詞にある「お魚くわえたどら猫」の魚は何の魚か。また、郵便局で切手を買うのは「買い物」と言えるか。これらの問いすべてに、はっきり答えることができない。人によっても、捉えが違う。典型的なものと、「〜らしい」ものがあり、「〜らしさ」の度合いは様々である。つまり、言葉を明確に定義することはできず、答えはない。だからこそ、考えることが楽しいのである。

「浮き沈み」という言葉がある。中国の若者に尋ねると、ほとんどの人は、これから浮いていくので今は沈んでいる状態だと答える。将来に対して、明るい見方をしている若者が多い。日本の若者は、今は浮いているがこれから沈んでいくと答える人が多く、将来に悲観的な考えをもっている。

日本人は英語が苦手だと言われる。しかし、日本人は知らない人と話すとものおじしてしまうのであって、英語が苦手なわけではなく、そういった決めつけに捉われてはいけない。

このように、私たちが考えたこともないような問いが次々と出され、だれもが知っている言葉なのに、それを説明することのむずかしさを会場の参加者は実感しました。そして、言葉のあいまいさやおもしろさをたっぷりと味わいました。

「言葉」という視点から、子どもたちにじっくり考える楽しさを味わう機会を与えることの大切さに気づかされ、また、子どもたちに自信をつけ、将来に対して前向きに考えられるよう導いていくことが必要であると感じました。

金田一さんの気さくな人柄がにじみ出る語り口に引き込まれ、1時間半があっという間に過ぎた講演でした。