第1944号2014年11月10日
「ゆたかな学び」をもとめて活発な討論 第64次教育研究静岡県集会開催

2014年10月25日(土)・26日(日)に、磐田市立豊田南中学校と豊田南小学校(磐周支部)を会場に、第64次教育研究静岡県集会が開催されました。

1日目午前の全体会では、伊藤恭彦さんによる「集団的自衛権か平和構築力か−憲法の平和主義再入門」と題した講演が行われました。2日目に「憲法・平和・民主主義をどう学ぶか」をテーマに行われた特別分科会と合わせ、憲法や平和についてじっくりと考えた2日間になりました。

1日目午後から2日間にわたって開催された分科会では、計236本のリポートが提出され、日頃から熱心にとりくんでいる実践を交流するとともに、「子どもたちにとって本当に大切なこと」「わたしたちがやるべきこと」等について熱い議論が交わされました。

県下各地から約830人が集まり、中身が濃く、学びの多い研究集会となりました。

執行委員長挨拶

子どもの学ぶ権利を尊重し、平和な社会の形成につながる人づくりをめざして

静岡県教職員組合執行委員長 鈴木伸昭

26年前、2校目の勤務となる中学校で私は一冊の冊子を教頭先生から手渡されました。その数年前の生徒指導上の大きな出来事をきっかけに、そこからのまさに「教育の再生」に向けた昼夜を分かたぬ先生方の懸命の努力を当時の校長先生が自らの手で綴ったものでした。そこには、「子どもたちの『荒れ』にはそれ相応の理由があり背景がある。追い込まれた気持ちに寄り添い、共感することによって、その子の心を解きほぐし自立に向けた指針を示してあげることが教育である。教育に『荒地』がなくなることはない。いかに少なくするかが教育だ。子どもを信じて寄り添おう。まずは信じることだ。そうして、時間をかけ一人一人の生徒に活躍の場を設け、自己の存在を自らが感じ取る経験を積み重ねてあげよう。」そうした願いと懸命の努力が綴られ、徐々に落ち着いた学校生活を取り戻していった記録でした。今この立場になって思い返してみると、その実践の一つ一つが、私たちの拠り所とする、子どもの権利を大切にすることとつながっていたことに、今更ながら気づかされています。

今年は子どもの権利条約が国連で採択されて25年、日本で批准されて20年という節目となる年です。ただ、この条約は日本においては未だに市民権を得ていないと思われるところがあります。権利の前に義務があるべきとの声がよく聞かれます。また、この条約は発展途上国において学ぶ機会が保障されていない子どもたちを想定しており、日本のような先進国にはあまり当てはまらないとの意見もあります。しかし、そうした考えに対し、私からすると、子どもの権利条約に込められた理念は、26年前に自分が勤めた学校ですでに実践されていたではないかと問い返したい気持ちになります。一人一人の子どもの自己実現のため、改めてこの条約が言わんとすることを咀嚼し理解に努める必要を感じます。

教育界において、子どもの権利条約の理念がしっかりと継承され根付いてほしいという願いの一方で不安も感じます。政治主導の様々な改革の向かう先や学力調査に関する議論の先には、果たして子どもたちのゆたかな学びや確かな人間形成へとつながるものがあるのでしょうか?目新しくもっともらしい政策やパフォーマンスが闊歩し、教育の本質に迫る議論がどこかに飛んで行ってしまっている感があります。どのような人づくりをめざすのか。そのために学力をどう捉えるのか、学校教育でできることは何なのか。学校教育だけではなしえない教育は「どこで」「だれが」責任をもってすすめるのか。そうした議論が置き去りにされていないか、という危機感をもちます。だからこそ、私たちは事の本質を見失うことのないよう議論を交わし、足元を確かめつつ前にすすむことが求められます。

教職員組合としてすすめる教育研究活動の根底には、人権が尊重され、民主主義に依拠した平和な社会づくりに向けた人づくりへの願い、子どもが自立して生きていく際に必要な力を身につけさせたいという願いがあります。そのために子どもの学ぶ権利をどう保障するかが大切です。特に義務教育段階において、人格形成にとって必要なバランスをとった学びを展開するため、私たち自身が常にバランスをとるための健全な批判的視点をもつ必要があります。独善的になることなく、固定的な観念や偏った価値観に依ることなく、健全な批判精神をもって社会を見つめる目を、子どもも教職員も養っていくことが肝要です。しかも、その目は高い所から全体を俯瞰する「鳥」の目と限りなく地面に近いところから見上げる「虫」の目の両方が必要であろうと思います。そうした目を養う一つの機会として、この研究集会を捉えていただければ幸いです。

記念講演

集団的自衛権か平和構築力か − 憲法の平和主義再入門

名古屋市立大学教授 伊藤恭彦さん

「2014年7月1日 日本は大きく変わった…」集団的自衛権の行使容認により、日本はこれからどうなってしまうのでしょうか。教育に携わるものとして、私たちは子どもたちに何をするべきなのでしょうか。伊藤先生から「平和とは」「国とは」といったテーマについて、国際的な視野と幅広い見識に基づいた様々な示唆をいただいた講演でした。

■問われる平和主義
  • 集団的自衛権とは・・・アメリカの抑止力への貢献という形での「国際貢献」
  • 何を守りたいのか・・・国際社会の中で日本が得てきた利益(既得権益)・・・食糧、資源など
  • 既得権益を守るための紛争をどう解決するか
    <軍事的解決> 軍事力で威嚇しながら既得権益を維持・・・日本はこの方法に本格的に参加
    しかし・・・暴力は暴力を生むだけ→忍耐強く理性的に<平和的解決>をめざすべき。
■根底的平和主義
  • 暴力の温床(原因)になっているのは・・・貧困をはじめとした地球的な問題群
    • 極度の貧困に苦しむ人々⇔年間2000万トンの食糧を廃棄する日本
    • 一部の人々の暴力(資源を巡る争い)や貧困の上にできあがっている私たちの「豊かさ」
  • 地球社会の「根底」から平和を脅かす土壌・要因を除去しなければ、日本の平和もない。
■子どもたちへ
  • 地球上に生まれたすべての人々が肯定される社会こそが「望ましい社会」
    →すべての人々の人権が保障される中で「私」の人権も保障される。
  • 平和構築力(平和的問題解決能力)の育成を
    1. 暴力によらず理性的に問題を解決する力
    2. ルールに従った対立・・・論争力
    3. 相手の立場になって考える力→こうした力をもった子どもが「根底的平和主義」を実践できる。

県教研参加者の声 〜分科会に参加して〜

  • 記念講演は難しい内容だったが分かりやすかった。こうした機会がないとなかなか知ることができない集団的自衛権についてもよく理解できた。社会を見る目、教育の視点が大きく変わった。
  • 中学校の実践を知ることができ、小学校の外国語教育からのつながりを考えるよい機会になった。また普段から悩むことの多い授業の作り方について参考になる話を聞けた。
  • ICTの活用事例がたくさんあり、若い教員がもっと参加すれば本当に価値ある勉強ができると思う。討論の後のまとめが大変有意義で内容が濃く、参考になった。
  • それぞれの先生がねらいをもって研究していてとても勉強になった。共同研究者の先生の「常にプロでないといけない」という言葉を胸に、明日からの実践にとりくんでいきたい。
  • 各支部のリポートの中に、すぐにでも実践に生かしたいものが多く、大変魅力的な分科会になった。進行もスムーズで議論が焦点化されたこともよかった。
  • 地区全体でとりくんでいたり継続的にとりくんでいたりする実践が多くあり、興味深い内容ばかりだった。今後の方向性が見えるようなまとめもよかった。
  • 他地区の実情や課題などを知るよい機会となった。自分の地区の様子と類似する点もあり、県全体の課題として捉える必要性を感じることがあった。