第1992号2016年11月10日
第66次教育研究静岡県集会開催

10月22日(土)・23日(日)に、焼津市立大井川中学校(志太支部)を会場に、第66次教育研究静岡県集会が開催され、県内外から約800人が参加しました。

1日目午前の全体会では、鈴木伸昭執行委員長が挨拶の中で、現在すすめられている次期学習指導要領改訂に向けた審議についてふれた後、「職場に創造的な教育研究活動の輪を広げ、教職員自身もゆたかな学びに向けた『協働』をすすめることが大切である」と結びました。また、来賓を代表して挨拶に立った山梨隆夫 焼津市教育長からは、「教職員一人一人が確かな実践力を身に付けることが大切であり、この教育研究集会は大変意義がある。教育研究全国集会でも、実践発表を通して静岡県の教育の質の高さを全国の皆さんに示してほしい。」と参加者へ励ましの言葉が送られました。また、首都大学東京 教授の木村草太さんを招き、記念講演が行われました。

1日目午後から2日目にかけては、24の分科会(うち2つは小分科会)と栄養教職員部懇談会が開催されました。今回は計227本のリポートが発表され、各分科会で熱い討論が行われました。

執行委員長あいさつ

創造的な教育研究活動の輪を広げ、ゆたかな学びに向けた「協働」を

静岡県教職員組合執行委員長 鈴木伸昭

教職員の力量向上を図る場は、本集会に限らず行政機関や他の研究組織によるものなど、それぞれの良さ・特徴をもって企画・開催されています。そうした中、教職員組合がすすめる教育研究活動は憲法と子どもの権利条約に掲げられた理念をどう具現化するか、すなわち、人権が尊重され民主主義に依拠した平和な社会の形成者としての人づくりをどうすすめていくかということ、子どもを学びの主体とし、その子なりの自己実現を図るための力をどう育むかということに力点を置いています。

今年8月に中教審が次期学習指導要領の全体像となる審議をまとめました。教職員組合として学習指導要領を健全な批判的視点で読み解くことは必要であり、子どもたちのゆたかな学びにどうつなげるかは、教育の最前線にいる私たちに委ねられています。学習指導要領が教育の機会均等と一定の教育水準確保のための機能を有している点は必要性を認める一方、教育課程を編成するにあたっての大綱的基準であり、学習内容や指導法は画一的になることなく、子どもの実態や地域の特性に合わせて柔軟に取り扱うことが望ましいことも重要な点です。

今回の改訂においては、「社会に開かれた教育課程」の実現を冒頭に掲げ、新しい時代に求められる資質・能力の育成をめざすことが謳われています。そして従来の「何を学ぶか」という学習内容の見直しに加えて、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」という点まで踏み込んでいる点が、これまでと大きく異なっています。「社会に開かれた教育課程」については、学校と社会が目標を共有するとしている点で、目標設定の軸足をどちらに置くかに留意すべきです。社会のための個人か、個人のための社会かの綱引きの議論がされてきた中で、やはり個人が社会を形成する主体であることに重きを置くという基本は押さえておく必要があります。新たな視点として加えられた「どのように学ぶか」という点では、「主体的・対話的で深い学び」を引き出すための「アクティブラーニング」がキーワードとして示されています。新しい言葉ではありますが、小中学校においては、これまで十分に実践を積み重ねているものであり、その延長線上にあるものと受け止めるべきです。むしろ私たちが画一的な考えに囚われないよう留意する必要があります。「何ができるようになるか」については、学びのゴールを単なる知識の習得ではなく、学ぶプロセスを大切にし、その結果として新しい時代に必要な資質・能力の育成に重きを置いている点で評価すべきですが、「資質・能力」をどのように理解・共有し具体化していくかは時間を要します。さらには、この資質・能力の育成に重点を置いたとき、現在の全国学力学習状況調査のあり方がこのままでよいのかという疑問が生じます。めざす力の質が変わっていく中で、調査の趣旨と実施方法及び結果の取り扱いに整合性が必要です。

こうしたことは私の独善的な学びから引き出したものであり、底の浅さを自覚しています。学びには仲間がいて、議論を交わしながら新たな気付きを得ていくことが大切だと痛感します。それぞれが自ら求めて学ぶことは大切なことですが、それとともに職場に創造的な教育研究活動の輪を広げ、教職員自身もゆたかな学びに向けた「協働」をすすめることが大切です。殊、世代交代のすすむ中で、豊富な経験や実績をもつ世代と新鮮な感覚をもつ世代との間で、引き継いでいくこと、新たな発想へと転換していくこと等を練り合い共有する場は重要です。

記念講演「立憲主義から日本国憲法を読む」

首都大学東京教授 木村草太さん

2015年の安保法制を巡る論議を始めとして、憲法の内容やあり方に注目が集められています。静教組の教育運動は、日本国憲法と子どもの権利条約の理念がベースとなっています。今回の記念講演では、憲法学が専門でありコメンテーターとしても活躍されている木村草太さん(首都大学東京 教授)を招き、立憲主義の基本的な考え方をもとに日本国憲法をどう読み解いていけばよいのかという視点から講演をしていただきました。

■はじめに、立憲主義について

立憲主義とは、過去に国家権力がしてきた失敗(人権侵害・独裁・無謀な戦争)を繰り返さないために、歴史の中で国家権力を制限するものとして成り立ってきた。人権侵害に対しては人権宣言、独裁に対しては権力分立、無謀な戦争に対しては軍事力のコントロールという形で各国は憲法の中に盛り込んできた。

■憲法9条と武力行使の禁止

憲法13条は、日本政府に対して国内の安全を保護する義務を課している。国内の防護については「行政」の範囲に含まれ許容されるが、他国防衛(憲法9条の例外)については許容する条文がない。よって、集団的自衛権の行使、自衛隊の国連軍参加は憲法違反となる。

■安保法制のポイント

自衛隊の出動は、相手が国であれば「防衛出動」、相手がテロリストや犯罪者であれば「治安出動」とされる。程度の問題では区別されない。自衛隊法の改正で新たな条文により設けられた防衛出動の新要件(存立危機事態)で想定される事態は、具体的にどういう状況を指すのか、政府の説明では理解できない。具体的な状況を示せないのであれば、これまでの個別的自衛権の行使にとどまるので、新たな条文の意味がない。

■辺野古訴訟の行方

憲法41条では「国会は唯一の立法機関(内閣ではない)」、憲法92条では「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は法律事項(立法が必要)」、憲法95条では「地方特別法は住民投票の承認(過半数の同意)が必要」とある。法的根拠が不十分であり、辺野古移設を内閣のみで決定してよいのかという疑問が生まれる。

各分科会で熱い討論 〜参加者の声〜

  • 前向きな実践を多く聞き、大変勉強になりました。支部の人に少しでも多く伝え、実践する仲間を増やしていきたいと思います。
  • 計画性のある長期的な実践を聞かせていただき、今後の自分の授業でもやってみたいと感じました。先生方の熱い想いが伝わり、教員としてこれから何ができるのかを考えていきたいと思いました。
  • どのリポートも大変参考になり、自分の実践について振り返ることができました。小学校の先生方との交流を通して、改めて小中連携の大切さを実感することができたと思います。
  • 教材研究、子どもの見取りなど、どれをとっても新鮮で、よい刺激となりました。特に、子どもの思いと教員の願いの「ズレ」をどう折り合いをつけていくのかが大変勉強になりました。
  • 美術・図工の実践がたくさん聞けて、非常に参考になり、早く学校に帰って「造形遊び」の授業がしたくなりました。初めて参加しましたが、機会があればまた県教研に参加して他の先生方の実践を聞きたいです。